妄想三流建築士

キャストドール(球体関節人形)の写真などをぽちぽち載せるブログです。苦手な方は全力退避でお願いいたします。


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ノイズ

以前書いた、リューとグレンが出ている、よくわからんマフィア小話です。
しばらく写真が撮れるかわからないので、とりあえず。
若干のゴア表現あり。
キャラ設定にご興味がある方がもしいらっしゃいましたら。
 
■□■


ノイズ。
目の前に、ノイズが走っている。
濃紺とニクヅク色の絨毯、マホガニーの美しい木目、一面に砕けて散っている硝子、視界に映る全てが、ざりり、と音を立てては極彩色の粒に解ける。
そしてすぐにまた、元の輪郭を取り戻す。さっきからその繰り返し。
明かりがまぶしい。
目が痛い。お願いだから、明かりを消してほしい。そんなふうに誰かに懇願したくなる。
誰か。誰か。頼む。硝子が、光を集めてるんだ。
鋭くて冷たい光ばかり集めて、この目に放り込んでくる。
痛い。冷たい。差し込まれる。
こんなことには、あと一分一秒でも耐え切れそうにない。
誰か。誰か。誰か。誰か。誰か。誰か。誰か。
空っぽの頭が、誰かに助けを呼んだまま思考を止める。
そして『誰か』が言う。

「目が醒めたのか?」

物静かで、耳の奥まで静かに浸みる声。
心が震える。
体は、さっきからずっと痙攣している。
誰か。誰か。誰か助けて。ここから出して。お願いだ。こいつじゃ駄目なんだ。本当に駄目なんだ。

床に倒れた自分の傍らに、彼が膝をついたのがわかる。
きっと妙に無駄のない動きなのだと思う。
ほんのわずかな、一瞬と言ってもいい付き合いの中でわかったことには、彼はどうやらそういった人間らしいのだ。
つまり、極端に無駄が嫌い。自分が興味のあること以外が本当に嫌いだ。
だからとにかく無駄をはぶく。そして、興味のあることに関しては恐ろしいまでに無駄を愛する。

優しい指が見える。
ノイズだらけの視界をよぎって、白い指が自分の頬を優しく撫でる。
何度も。慈しむように。

助けて。反射的に心が叫ぶ。
こんなに優しくしてくれるんだ、きっとこいつが助けてくれるよ、こいつでいいよ、助けてもらおう、手を取って。
引き立たせてくれ。そうしたら後は、抱くようにして連れて行ってもらおう、どこか安全なところへ。
そこまで考えて、頬が引きつるように笑顔らしきものを作りかけた。
途端に全身が痺れるみたいに痛みを思い出した。
目蓋を割って熱い涙が零れだして、まだ頬にある彼の指を濡らした。

違うんだ、そうじゃないんだ。俺は混乱している、この部屋にはさっきから、俺とこいつしかいなかったじゃないか。ずっと俺たちはふたりっきりだったじゃないか。
ええっと……ここに来るまではどうだったっけ。
さあ、どうだっただろうな。
俺はもうこの部屋の外とはどうしようもなく隔てられてしまって、あっちとこっちが地続きだとかはとっくに考えられなくなっている。
たとえば最初にこいつに関する資料を見たときには、妙に役者みたいな男だと思ったもんだ。
いわゆる映像映えする類なんだろうな、と少々不愉快に思っていたけれど、実物を見たら面白いほどに印象は変わった。

小ぎれいなスーツを着て眼鏡なんかかけて物静かに話す、それでも歳にしちゃ異様に落ち着いてて地味な圧迫感がある男。そいつの印象を左右しているのは内からにじみでるものとか動きとか喋りとか、むしろそっちのほうだった。
なんとなく信用できそうで、同時に気を許すのは危ない男、どっちかというとそんな印象。いくら愛想が良くても、役者って感じじゃない。
なるほど、こいつは人の上に立つのには馴れているんだろうな。いかにもなややインテリよりの二代目。

俺はこいつのことをそんなふうにとらえた。無理もないことだと思う。大抵の奴はそんなふうに思うはずだ。俺はまともだ。まともじゃないのは、目の前にいる男のほうだ。

「話せ」

抑えられた男の声が響く。ごく短い命令なのになんだかとてつもなく優しい言い方だった。
俺は今こいつに愛されている、そんな確信があった。
俺はぶるぶる震える唇で必死に言葉をつむごうとする。つまり、既にもうあんたに言えるようなことは言ってしまった後だということ、自分は充分後悔しているということ、だから嘘なんてついていないということ。
お願いだ信じてくれ、お願いだ。

「いや、違う。お前のことを聞かせてくれ」

男の声はまだ優しいまま、辛抱強いと言ってもいいほどの調子で続く。
優しい指。優しい指が頭を撫でている。こんなの親にもされたことがない。
彼の言葉。弟か下級生か、そんなものに対して根気よく、かみ砕いて言い聞かせる、そんな調子で続く言葉。多分この優しさは演技じゃない。
こいつはもう俺に対して怒ってなんかいないんだ。
だってこいつは今までで一番本物らしい。
穏やかなのに人の脳内見透かすような目で目の前の人間を見つめて薄く笑ってるときより、何もためらわずに俺をもう少しも動けないようなものにしてるときより。

「物心ついた最初の記憶は? 小さいころはどんなものが好きだった? 気づくとふと口に出しているような言葉はないか? 昨日の昼飯時に何を考えた? 愛している人間はいるか?」

怖い。困ったな、あんたは今とっても優しいし、俺のことを思ってくれてる気がするし、俺はあんたに答えなきゃならない気がするんだが、どうしてこんなに怖いんだろう。よくわからないんだ、あとあんたの質問もよくわからない。生まれて最初って、そりゃ空が青くて、嫌だなこんなこと思い出したいわけじゃないんだ青い空に手を伸べている花びらが降ってきている気がした木の下だった俺は誰かの手を求めていたそこにあるはずだった手はどこへいったのか今思ってもそれは大変切実にもの悲しい思い出なのです。

「話せ。もっと」

■□■

「ついてきてるのが俺でほんっとよかったですよ。そう思うでしょ? ね?」

背後にいかにも不満そうな声を聞きながら、リュディガーは鏡の前で乳白色のネクタイをしめる。
今の顔の傍に柔弱な色を持ってくるのはいかにも似合わないように思ったが、まあ、あとで眼鏡をかければどうにかなるだろう。
そんなことを考えながら、ごく適当に部下に答える。

「そうだな。お前は着替えを自分の趣味で選ばない」

「誰が! そんな話を! したっつーんです、か! ああもう、まあいいや。はいはい、こんなんいつものことですよね、全部終わった後に車と着替え、ってね! ええもうそりゃあもう。俺はあんたの家政婦さんですか? 味見できねーでいいんならいっそ料理もしましょうか。ねー、こっちのほうの料理なら俺の専門だってのに、どうしてまあこうなるかなあ!」

賑やかな調子でぶつぶつ言うグレンの声が少しくぐもる。
リュディガーのいる浴室を出て、ホテルの居間のほうへと行ったのだろう。
リュディガーは服装が完璧に整ったのを確認してから、目の前に自分の両手をかざした。
少し骨が目立つ白い手だ。
血の痕はもうどこにも残っていない。

「最近の若いの、こういうの苦手な奴多いんですけど、知ってました? っていうかあんた、暴力嫌いなんじゃなかったでしたっけ」

「暴力は嫌いだ。俺が好きなのは、『死』そのものだ」

グレンの声に答えて、リュディガーも浴室を出る。
居間の入り口付近でこちらを振り返ったグレンは、本人もほとんど十代にしか見えない金髪の男だった。
実際の年齢も二十代前半で、リュディガーも彼と数歳しか違わない。
こんなふたりで『最近の若いの』も何もないという話だが、ふたりがいる集団のボスがリュディガーで、グレンが側近のひとりであるかぎり、下っ端の若者はそんなふうに呼ばれるしかない。

結局のところ、これは子供が集まって事態をひねくりまわす、大変物騒なごっこ遊びだ。
リュディガーはしばしばそのように自分の現状を認識する。

遊びのルールは簡単で、ただ実際やるとなるとそれなりに思い切りが必要だ。
リュディガーは思い切りの面で苦労したことはあまりない。
ルールの面では父親から執拗な教えを受けて骨身に染みている。
ここまでやってこられたことからしても、この遊びはまあまあ彼の性に合っていると言ってもいいのだろう。

問題はいつでも、遊びをやめても帰っていく現実がないことだけだった。

細身のブラックスーツに臙脂のネクタイをしめたグレンは、どちらかというと愛らしい顔を歪めて首をひねった。

「あんたの哲学はわかんねーな、ほんと」

「お前は、それだからいい」

「……そーですか」

「行くぞ」

最後に眼鏡をかけて、ちらと扉の際の鏡を見やってから、リュディガーはホテルの廊下へと歩み出た。
乾き切った空気を『新鮮だ』と感じ、いかに今まで居た室内が生物の匂いで満ちていたかを再確認する。
柔らかな絨毯と、落とされた照明。左手には硝子張りの吹き抜け。
下を覗けば、ピアノを囲んで悠長に喋っている品のいい人間たちの群れが見える。
普段はなんの感慨も覚えない光景にも、少しだけ優しい視線を注ぎたいような気分だった。

ふたりしてエレベーターの箱の中に収まった直後、グレンが正面を向いたまま訊いてくる。

「今、少し歌ってました?」

「そうか? 知らん」

「知らんってあんた……」

あきれ果てた声を出しながらも、それ以上訊かずにグレンは黙り込んだ。

歌。
奇妙な話だ。歌など歌った覚えはない。
ただ、以前、ひたすらに自分の死に憧れていたころ。
死の匂いを嗅ぎ取ると、けして覚えることのできないひとつの歌を聴いているような気持ちになった。
そんな気持ちが自分の世界をはみ出して、傍らにいる人間を少々浸蝕したのかもしれない。
特に面白い想像ではなかったが、リュディガーは目の前の現実をそのように処理することにした。

冷たい石を張ったロビーを出ると、エントランスにはグレンがあらかじめ指示しておいたであろう車が回されている。
乗り込む前の一瞬に、リュディガーはふと空を仰いだ。
夜だ。ちらちらと瞬く星が幾つかは見える。
特に感慨を覚えるでもなく、すぐに視線をそらして車の中に体を押し込んだ。

「あれですよねー。あんた最近、わりと空見てますよね」

「そうだな」

「あ、それは自覚あるんだ。あんまりぼーっとしてると、撃たれますよ?」

「そうか?」

「…………いや、まあ、ね……。なんだろ、この『撃たせません』とか言わなきゃなんなくなりそーな空気。くそ。面倒くせえなあ、あんた…………」

いかにも嫌そうなグレンの台詞を聞きながら、リュディガーは唇あたりに笑みらしきものを漂わせる。
車内から見る世界は水槽の中身のようで、まだもう少しだけ現実というには色が足りなかった。
色のない世界でも、死といずれ死ぬすべての人間を愛し続ければ呼吸はできる。
夜は美しい。
この黒は、死は、虚無ではない。
万物を孕んだ、豊穣の黒だ。


End
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八尋

Author:八尋
ウェットでもあってドライでもあり、ジオラマのように人形を愛でているぼんやりオーナー。
首都圏在住。

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