妄想三流建築士

キャストドール(球体関節人形)の写真などをぽちぽち載せるブログです。苦手な方は全力退避でお願いいたします。


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賭けポーカーと人魚の話

doll20120711006.jpg

将校クラブ風。
せっかくなので(?)小話でも追記に書こうと思います。
写真には関係あ……る……かな? た、多分……。
小さめですが写真がもろもろっと出るので、少々重いかもです。
ご注意くださいませ。



 
doll20120711003.jpg

「人魚が出るって話じゃないですか。歌声で船を沈めるやつ」

 口火を切ったのはアラステアだ。
 非の打ち所のない海軍将校だが、いつだっていささか唐突な男。
 そんな彼にも、エルンストはいかにも興味深そうに返す。

「あー、俺もそれ、知ってますよ。その昔、帆船から落ちた女だそうで」

「落ちた? 落とされた? どっちだ」

 淡々と問い返すのがリュディガー。
 生またときから戦車に乗っていたような目をしている。
 アラステアはカードを捨てながら、面倒くさそうに眉根を寄せた。

「細かいですね、君。昔の話ですよ。帆船時代の」

「そこは大事なところだろうが。感傷的な話なのか、恐怖ものなのかが変わる」

 あまり仲がいいとは言えないふたりに、エルンストはわざとらしい笑みを浮かべた。

「ええっと、俺が聞いた限りじゃ、船の上で大ロマンスやったあげくに自殺だって!」

「個人の痴話喧嘩に船を巻きこまれては、大迷惑だな」

 適当に煙草をくわえて言うリュディガー。
 アラステアは神経質そうにこめかみあたりを指で叩いて言う。

「わたしが聞いたのは違いますね。イギリス軍将校が大事なご婦人を軍艦に乗せ、
途中で水兵の反乱が起こって将校は死亡。ご婦人は操を立てて自殺、と」

「あっれ、そんなですか。うーん。気重な話になっちゃったなあ」

 エルンストうめき、ため息を吐いた。
 戦場で過ごしてそこそこ長いだろうに、子供じみた反応だ。
 そんな彼をちらと見て、リュディガーが言う。

「それは、俺が聞いた話と違う」

「……知ってたんですか、あなたも……」

 ならば早く言え、とアラステアが視線で訴えるが、気にせずリュディガーは続けた。

doll20120711002.jpg

「その女は歌が上手かった。そのうえ貴婦人にしては大変きさくで、
水兵たちが踊る夜には必ず歌い、一部には女神扱いだったとか」

「ありそーな話ですね。俺、そんなひとだったら守っちゃうなあ」

 エルンストは楽しげになるが、アラステアは冷たい。

「下手に守っても袋だたきですよ。大洋の上の船は小さな王国だ。
王に逆らえば問答無用で殺される。反乱で盛り上がっているときに、
数人が反抗しても一緒に海に落とされるだけでしょう。今も大して変わりません」

「だろうな。海軍は今でも実に偉そうだ」

 そっけなく言ってリュディガーがカードを取る。
 エルンストは苦笑いし、アラステアは苛々と答えた。

「あなたはたまに鏡を見なさい。……で、続きはないんですか、その話」

「ある。女を神格化していた一部の乗組員は、反乱時に彼女を逃がした。
他の乗組員には『彼女は艦長の死を悲しんで身を投げた』と言い訳して、
ドレスを着せた砂袋を海に放りこんだわけだ」

「ふうん。それもありそうな話だなー」

 のんびりしたエルンストの相づちを聞いているのかいないのか、
リュディガーの話は続く。

「いつか迎えに来るから生き延びてくれ、そう言って彼女を逃がした
男たちは、陸に帰って全員縛り首になった。反乱の罪でな」

「それはそうです。反乱が起きた船は全員死刑。決まりですから」

 きっぱり言い切るアラステアにちらと視線をやって、リュディガーは言う。

「……彼らは死ぬ前に、身近な人間にこの海域で耳を澄ませてくれるように
頼んだのだ。きっと素晴らしい歌が聞こえるから、耳を澄ませてくれ。
聞き逃さないでくれ、俺たちの代わりにあのひとを助けてくれ――。
彼らの必死の願いは、多くの者にただの波の音を歌と錯覚させた。
そして歌う女はいつしか伝説になった……ここまでだ」

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 そこで話を打ち切り、リュディガーはカードを引くのをやめた。
 アラステアとエルンストは、いささか複雑な顔で黙りこむ。

「棄権する者は?」

「……なしで」

「ではここまでだな」

 開示されたそれぞれの手札を眺め、アラステアは不満げに鼻を鳴らし、
エルンストは深いため息を吐いて頭の後ろで手を組む。
 彼はもう、ゲームの行方より物語の行方のほうに気をとられているようだった。

「――本当は迎えに来たかったでしょうね」

「なんの話してるの? しんみりしちゃって」

 そこへ店の歌手が緩やかに歩いてやってくる。
 エルンストは途端に笑顔になって振り返った。

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「人魚の話だよ、カレンちゃん! 知ってる? このへんの海で――」

「知ってるわよ。だってそれ、私が彼に教えたんだもの」

「えっ」

 エルンストがきょろつくのも気にせず、リュディガーは卓にチップを積んでいた。

 カレンはにっこり笑って言う。

「あたしのひいおばあちゃん、記憶を失って近くの浜辺に打ち上げられたの。
だからみんな、ひいおばあちゃんのことを『人魚』って呼んだのよ。
――お酒をもう少しいかが?
それとも、歌でもうたおうかしら?
うちの家系はね、代々とっても歌が上手いの」
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八尋

Author:八尋
ウェットでもあってドライでもあり、ジオラマのように人形を愛でているぼんやりオーナー。
首都圏在住。

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